日時 2016年4月8日(金)19:00-21:00
場所 法政大学市ヶ谷キャンパス ボアソナード・タワー 26階スカイホール
テーマ 世界に向けたオールジャパン:平和構築・人道支援・災害救援の新しいかたち
趣旨 上記テーマと同じ内容で出版される書籍の概要の報告と提言について有識者を交えた意見交換
プログラム開会の辞(敬称略)
西原正(平和・安全保障研究所理事長)
パネル討議モデレーター(敬称略)
吉崎知典(防衛研究所)
パネリスト(敬称略、登壇順)
上杉勇司(早稲田大学教授、書籍の概要説明、討議ポイントの提示)
田中明彦(東京大学教授、オールジャパン連携に関するJICAの視点)
山口昇(国際大学教授、オールジャパン連携に関する自衛隊の視点)
長有紀枝(立教大学教授、オールジャパン連携に関するNGOの視点)
オールジャパン研究会出版記念シンポジウム
パネルディスカッション概要
パネリスト1(上杉勇司)
本書は日本のアクターによる、国連平和維持活動(PKO)や国際災害救援における「3D:Diplomacy, Development, Defense」アプローチに関しての実務家や研究者ら30余名による同種のものとしては初めての総合的な書物である。
本書で用いるオールジャパン連携は、省庁間の連携をまず意味する。また官民連携を意味する。活動の舞台としては緊急支援から復興支援まで、PKOから国家建設までを範囲とした。
○オールジャパン連携3つの類型
本書では、日本の運動会競技になぞらえて、オールジャパン連携の3つの類型/モデルを仮説的に提示した。
(1)二人三脚型連携
時系列的に同時並行で複数のジャパンアクターが役割分担、連携することを指す。南スーダンやイラクの事例が当てはまる。
(2)リレー型連携
時系列的にジャパンアクターAからBへ継ぎ目なくリレーされる形。本書ではこのタイプに強調点が置かれている。実際に、このパターンになる可能性が高い。東ティモールやハイチの事例がこれにあたる。
例)ハイチ震災時における活動拠点のリレー型連携
文民の国際緊急援助隊(JDR)医療チーム→自衛隊のJDR医療隊→日本赤十字社医療チーム
(3)玉入れ型連携
おもに自然災害後の圧倒的なニーズの存在に対して、いろいろなアクターが緊急支援として各個にできることを行うという形。フィリピンの事例がこれにあたる。
⇒本書の結論(伝えたいこと)
基本的にはリレー型のオールジャパン連携を目指せ。日本が持ちうる多様な主体が、さまざまな機能を継ぎ目のないようにシームレスな連携を行うべきだ。
○制度化されつつあるオールジャパン連携
当初、オールジャパン連携というのは場当たり的なボトムアップの連携だった。それが昨年改訂された開発協力大綱や新しい防衛計画の大綱、国際安全保障会議(NSC)設置によって、これまでの現場での場当たり的な連携から、政策レベルでの連携へと制度化されつつある。その政策レベルでの制度化には良い面と悪い面がある。
l 良い面:援助効果の拡大
l 悪い面:これまでは現場のニーズにもとづいた連携だった。それが制度化により、現場の実情を踏まえない、現場の事情とマッチしない、政策レベルでのトップダウンの連携の要請がなされうる。
○オールジャパン連携への批判
(1)排他性
オールジャパン連携とは日本を中心とした、日本が全面に出る取り組みであり、排他性があるかもしれない。国際協調と矛盾する可能性がある。国連PKOのような、国連の一員として参加している自衛隊を日本政府の道具として使うのは良いことなのか。
(2)発展性の限界
オールジャパン連携の中核には自衛隊がいる。しかし自衛隊の派遣先は限定的である。現時点では南スーダンに派遣されているだけである。その状況下でオールジャパン連携を進めると、自衛隊を不可決な要素としている限り、これ以上の連携の発展性がないのではないか。
(3)開発偏重
自衛隊のこれまでの派遣は施設部隊が中心だった。重機をつかった協力形態だった。開発を進めるために自衛隊や外務省の緊急支援の予算やODAを使ってきた。Engineering Peaceの取り組みであり、開発偏重型のオールジャパン連携だったといえる。しかし現実として、現代のPKOは文民の保護(PoC)を重視している。この状況下で施設部隊中心の派遣では、対応が十分ではなくなるのではないか。
パネリスト2(田中明彦)
これまでこのような本がなかったことは残念だったが、今、出版されたことを大変喜ばしく思う。部分的な論文等はこれまでもあったが、まとまった包括的な書籍は意味がある。全体でどうすべきか、と考えることが重要だからだ。
○国際社会全体の取り組みのなかで日本は何をすべきか、が前提
「オールジャパン」がかけ声として出てくるのは感情としては理解できる。しかし、災害救援にしても平和構築にしても、国際的な取り組みが全体として援助の効率を最適化し、相手国のニーズを満たせるかどうかが最も重要。その全体の努力のなかで、それぞれのアクターがどれだけ役割を果たせるかという視点が大事。日本だけで人道支援のすべてのニーズを満たすことはできない。最終的には全体のなかの重要なピースを日本人が担う、あるいは時系列的にいえば全体のプログラムのなかで重要な部分を担うといったことを日本はやってきた。国際社会全体としての取り組みを活かすには日本は何をすべきか、という視点が大前提だ。
○穴をどう埋めるか
人間の安全保障に関連して分けると世界には、人が作った脅威(紛争)、自然が作った脅威(災害)、そして生態系が作った脅威(大感染症)などがある。これらに対応するにはどうすれば良いか。
各省庁の縦割りでやっていてはダメだ。国連をはじめとしてクラスターアプローチなどを導入して援助の国際調整を行っているが、それでも国際的な援助も「穴だらけ」になるのが現実だ。そのなかで、このたくさんの「穴」を日本がどのように調整し、埋められるかが重要。
○日本のこれまでの取り組みを評価
実際にJICAが対応した人道支援は、紛争への対応(紛争起因の難民、フィリピン・ミンダナオ和平)、純粋な自然災害対応(フィリピン台風ヨランダ、ネパール地震)、感染症への対応(エボラ熱)の3つに分類できる。それぞれに成績をつけてみたい。
ミンダナオでは包括和平につながる努力ができた。南スーダンでもJICAは頑張っているが、やはり政治レベルでの和平プロセスができないと、人道支援としてはどうしようもないという現実がある。治安の悪化により引き揚げざるを得なくなった。
フィリピンやネパールでの自然災害対応は災害が多い日本の経験や蓄積を活かした対応ができた。しかし、まだ穴だらけだ。
自衛隊が緊急援助のなかで輸送をどう担うのかという問題がある。フィリピンの台風ヨランダのときは、文民JDR医療チームの派遣に航空自衛隊(空自)のC-130を使用したが、日本とフィリピン政府間の調整という問題もあった。発生直後に初動でC-130を発進できていたら、海路と陸路で行くよりも1日は早く被災地に到着できたのではないかと思っている。タクロバンの飛行場に一番乗りできていたかもしれない。
○並走し、引き継ぐ力が大切
ニーズに対して、タイムリーにインパクトがあることをどうやって行うかというチャレンジがある。いかにタイムリーにやれるかが大事だ。人道支援は一挙に集まる。ワァ―と玉入れ型になるが、1か月余りで終わってしまい、だいたいが帰る。そこから復興・長期の開発が始まる。そこには資金が必要だ。JICAが通常行っている長期の開発援助プロジェクトを始めるには資金の調達を含め準備だけで1〜2年かかる。円借款でも1年以上決めるのにかかる。無償はもっとかかる。そこでJICAは技術協力の緊急開発調査で対応するが、それでも遅い。穴が空く。リレー型ではあるが、なかなかバトンタッチは難しい。冒頭の3類型を借りれば、人道支援では、綺麗な形でのリレー型というよりも、複数のプロジェクトが併走しつつ、緊急フェーズから、復旧フェーズ、復興フェーズに移っていくというのが実態に近いと思う。バトンタッチできるかというよりかは、長い期間並走しながらオーバーラップするなかで引き継いでいける力が必要だ。
○エボラ危機への対応は不十分
その観点からは、エボラ危機への緊急対応は非常に難しく、残念だった。中国軍は軍病院と一緒に派遣されたが、自衛隊はガーナまで感染PPE(personal protective equipment)を輸送支援した程度であった。そこから先は運べないことになった。その後、文民JDRチームのなかに感染症対応チームを作ったが、不十分なことしかできなかったと考えている。ある意味では危ないので行かなくても良かったという側面があるが、今後は感染症への対応も大切だ。
パネリスト3(山口昇)
前提が3つある。
1. 世の中には対処できることとできないことがある。できないことはできない。できないを目標にしてもダメ。どれだけ頑張ってもできないことはある。やれることをやるのは、必ず役に立つ、意義がある。
2. オールジャパンという意味は、日本として持っている能力をできるだけ役に立てようという意味では良いのかもしれない。イラクのときも一定のオールジャパン連携が実現した。イラク派遣時は、自衛官が殺傷される可能性と、自衛官が現地で犯罪を犯す可能性もあった。そのような場合に対処するために、イラク派遣中の自衛官・部隊が所属する地域の警務隊や警察・検察などが対応する準備をしていた。このように日本政府のさまざまな機能を出さなければ活動できなかった。ただし、必要な機能が必要なときに使えるようになっていればいいわけで、必ずしもすべてのアクターが「日の丸」の下にまとまって活動する必要はない。
3. どれ一つとして同じ紛争、自然災害は存在していない。Every disaster is local and uniqueである。定型を考えてはいけない。あらかじめこれがいい形ということ自体が危ない。事前に対応を考えるとき、ある程度の類型化は必要だが、それに頼り切ってしまうような定型化は避けるべきである。これまでのケースでこれが良かったというのはできるが、新たなものは現場ニーズごとに判断すべき。
○軍隊の連携
組織論として話せば、軍隊が出て行くと、滅多に「オール〇〇」にはならない。多くの事例では、各国の軍隊が派遣されるような人道支援・災害救援(HA/DR)対応の場合は、「オールジャパン」の対応とはならないことの方が多い。オール陸軍やオール空軍にはなるが、オールジャパンにはなりにくい。最近の多国籍軍の傾向をみていると、それよりも各国軍による、陸軍/海軍/空軍といった各軍種(service component)同士の連携で対応することの方が多い。連合(多国間の同機能)・統合(陸海空)でいえば、連合の方が進みやすい。輸送や医療といった各分野での機能別の対処になる。
○自衛隊のアセットを活かしてきた
確かに自衛隊の国連PKO派遣は工兵(施設部隊)が多かった。だが、必ずしも開発偏重ではない。施設部隊だけでもない。工兵に加え、医療・通信・航空輸送部隊(固定翼機、ヘリ)などは、お金があり豊かで洗練された部隊でなければできない。主力となる歩兵部隊は途上国を含めあらゆる国が派遣できるが、これまで日本が貢献してきた分野はそうではないという点に注意する必要がある。医療などはかなりの程度の高いレベルが求められる。東ティモールでは、医療と通信が足りない状況だったので、医療と通信を出して欲しいと国連から要請があった。自衛隊はそういったアセットをもっている。したがってそこをやってきた。
「オールジャパン」での支援を考えたとき、日本が全体として持っているどのアセットを、どのように使うかという視点からオールジャパン連携で考えるべき。
パネリスト4(長有紀枝)
本書における、類型化には大きな意味がある。同じオールジャパン連携に見えても、いろいろ違うという点がわかってきたのが本書の最大の貢献だ。
一方で、NGOの立場として、何をしたいのかという根源的な問いを突きつけられている気がしている。オールジャパン連携というとき、それは手段なのか、目的それ自体なのか。その主語は誰/何なのか。誰にとっての手段なのか、目的なのか。それを明らかにすべき。
NGOにとっては、オールジャパン連携は明らかに一つの手段である。くわえて、つねにではなく、目的にとって有効なときに検討する手段だ。
オールジャパン連携の戦略性とは何か。本書22ページに日本による緊急援助の「存在感を増すこと(可視化)が期待されている」という記述がある。もっと詳細に、誰に向けてのプレゼンスなのかを考える必要がある。現地の裨益者に対してか。現地の政府に対してか。他のドナーに対してか。国際社会一般か。国連に対してか。イラクのときのように米国に対してか。日本国内に向けてなのか。それにより「プレゼンスを増す」ことの意味合いは、大きく違ってくる。
○NGOが感じる距離感
この存在感を増す、ということ自体にNGOとしては距離感を感じざるを得ない。受益者の人びとにとって、より良い支援を行っていくことであれば連携の可能性がNGOには出るが、今のやり方は、距離感というよりも拒否感をもってしまう。また、それぞれのNGOで立場は違う。それぞれのNGOで、どこまでオールジャパン連携に協力できるかを考えるのが大切。
○紛争対応への寄付の少なさ
日本における寄付は、たとえば南スーダンなどの紛争地に対する支援への寄付は自然災害のそれに比べて一桁金額が少ない。開発や自然災害では、NGOは割と寄付金で事業を回すことができる。しかし紛争災害のさいには、寄付が1/10規模になるのでジャパンプラットフォーム(JPF)をとおした外務省と経団連からの資金に頼らざるを得なくなるが、それは彼らのいうことを聞かなくてはならないことを意味する。
●司会
田中先生から、全体の効率を高めることが重要だと指摘があった。ではどこからアプローチしていくのか。山口先生からは、軍対軍というような機能的な連携が大事だという指摘があった。長先生からは、目的か手段かという根源的な問いかけがあった。上杉先生からこれらへの返答を求めたい。
●上杉
必要なときのみ日本の持つ機能を組み合わせてやればよいという意見が出された。それであれば、「オールジャパン」という掛け声を何のためにかける必要があるのか。
その理由は、やはり可視性であり、それには2つの方向性があると考えている。
1. 日本の外交政策として、国際社会におけるプレゼンスを高めることが求められている。NGOは現地に重きを置くが、日本政府としては、国際社会のなかで日本のアクターが足並みをそろえて援助を行っていることを可視化することが大切だ。
2. また日本は連携をして効率的な支援を実施している旨を日本国民に対して示す必要がある。国内へのアピールとしての可視性だ。国民の国際協力への理解が進み、関心が高まり、支持が増す。支持が増せば援助額の増加につながり、最終的に現地に届く量が増える効果がある。
日本政府の政策として考えたとき、現地に対する直接的な裨益というよりは、以上の日本の支援に関する二つの外交効果や国内効果が重要であり、ここでオールジャパンの利用価値がある。
●司会
2年間のオールジャパン研究会で答えが出なかった問いをパネリストに聞きたい。
オールジャパン連携より、国際連携が良いのか。オールジャパン連携にこだわらずに米軍との協調を進めるべきか。それとも、やはり価値観を共有する者同士の協調が重要で、それがプロジェクトの安定性に繋がるか。
タイムリーかつ組織的な支援が必要だが、支援をタイムリーに行うとき、オールジャパン路線は足かせとなるか。日本に限らず、国際機関・民間など、どのようなアセットを使うのが最適なのか。
可視性という点でいえば、組織的に関わっているということを見せつつ、国際機関などと組むというのが効率的な可能性もある。オールジャパンという言葉に拘らずに実施して、まとめるというのが良いのか。
●田中
JICAが開発援助委員会(DAC)のなかで目立ちたいなど日本の可視性の話もあるが、意義は組織保存やいい恰好することではない。それぞれの組織にはそれぞれのミッションがある。JICAなら相手国の人道開発状況が良くなることがミッション。国際社会でのプレゼンスが高まることは付属的であり、根本的なミッションではない。
「オールジャパン」という掛け声は、日本のさまざまな能力をもつ援助コミュニティをまとめ、連携を図る契機として重要であり、効果があるかもしれない。
タイムリーとは、ここでやらないと、というときにやれるということ。できることはやる、できないことはやらない。しかしできることをやらないというのは問題だ。自分はできないが、日本のなかの彼らはできるとあらかじめ知っていることは大事。フィリピンのヨランダ台風災害支援のとき、自衛隊JDRと文民JDRの連携が、できそうなのにできなかったところがもったいないと思った。たとえばJICAが、自衛隊ならできるかもしれない、やってほしいと思うときに、自衛隊はやってくれない。そういう意味でのタイムリーな対応が必要。今後、JICA(文民) JDRと自衛隊の間で机上訓練、実動訓練などを実施してはどうか。
●山口
オールジャパン連携には国内効果の意味もある。出先で頑張っている人はもちろんだが、派遣元同士が協調することは大事。オールジャパン連携をだからこそ正しく定義する必要がある。
○類型化には意味がある
類型化は意味がないということではなく、むしろもっとすべき。より多い類型化で、より現実に近づける。類型がいくつもあれば、ユニークな事態が起きたときに、より近いものが見つかる。軍隊の世界では、作戦通りいくことはないが作戦計画を作ることには意味があるとされている。事前に関係者・団体で細かく連携の計画を練っておくことが重要。
ロジスティックスや通信の分野では、どのような事態でも連携内容は基本的には大きく変わらない。必ず準備しなくてはならないことは変わらない。計画・類型をいくつも持っていることが有益であり必須だ。
○NGO/軍隊の得意分野
NGOとひとくくりにするのは良くない。軍事か非軍事かでひとくくりにすることも良くない。しかし、東日本大震災(3.11)の経験から言うと、NGOというのは 一般に意思決定が速い。政府は公平性などを考慮し時間かかるが、NGOには機動力がある。
他方、情報を総合したり、通信設備(テレコミュニケーション)を立ち上げたりすることは軍隊が得意。米海兵隊が三陸沖で情報を得て、すぐに英訳して司令部へ送り、翌朝にはどこに何が必要か地図上に位置づけ(プロット)がなされ、現場のニーズが一目瞭然となっていた事例もある。元々インフラがないところで活動するように作られている軍隊は、被災地では強い。
●長
国民として、納税者としては、オールジャパン連携は必要だとわかる。ただし、「オールジャパンが援助のすべてである」と思わないことが非常に重要。
オールジャパン連携でできること、できないことがあり、できない部分はNGOができたりする。官のアクター(JICA、自衛隊)ができない、NGOが担える役割が存在する。そういうところを無理にオールジャパン連携と言わずに、潔く企業やNGOに任せるようなやり方が必要なのではないだろうか。
オールジャパン連携にたまたまはいっていない志を同じくする主体に対しても存在するスペースを与えて欲しい。すべてをオールジャパン連携で包含して、オールジャパン連携以外の者の息の根を止めるようなことはしないでほしい。
●司会
今後のオールジャパン連携のあり方について意見を頂きたい。
●上杉
オールジャパン連携の必要性を国内広報・外交プレゼンスという側面から説明したが、田中先生からは、その点はそれほど重要ではないという指摘があった。山口先生からは、オールジャパンにこだわることなく最大の効果を生み出せる連携を追求する方が、有益なのではないかという指摘があった。
さらに、できることがあるのにやっていない、という現実については、相互の理解を促進することで、両者の垣根が、低くなり、できることとできないことの判断がつくようになるだろう。
今後、平時からのコミュニケーションによって、それぞれのアクターができること、できないことを理解しておくことが重要。事前にオールジャパン体制をつくることで、自衛隊のできることできないことをJICAが把握しているようにする。「事前オールジャパン」の必要性がある。いざというときに現場で慌てることなく、まさに事前に、安全なときに準備しておくことは有益かもしれない。
また、エボラ危機のさいの日本の対応を「未完」として本書では論じたが、これも、こういう事態を想定して準備し、国民への説明の仕方を考えていれば、よりよい対応ができたかもしれない。これが、本書が説く事前のオールジャパン連携の必要性である。
どのような状況の時に、どのような連携が大切なのか、類型を研究し、準備することが重要。リレー型で言えば、繋いでいくという風に考えていったときに、穴がどこにあるのか、国際社会から見たときにどこに穴があるのか、そういう視点から検討すると、オールジャパンの意義が出てくるかもしれない。オールジャパンが穴埋めをする接着剤、基盤、プラットフォームとなりうる。
●田中
今後は何をすべきかというと、具体的な提案としては、非軍事の緊急援助隊、自衛隊とJICAの共同緊急援助隊をやっていければ良いのではないだろうか。まずは訓練でもよい。タクロバン(フィリピンのヨランダ台風救援活動拠点)では実際に自衛隊がJDR輸送をしたりしている。そういうものを踏まえて、できることできないことを明らかにするためにも、共同訓練をすべきだ。またオールジャパン連携には、警察にも入ってほしい。
【フロアQ&A】
Q: 上杉先生が指摘されたマイナス部分の3点(排他性、発展性、開発偏重)に、自衛隊を主要なピースとして位置づけている意味合いがある。自衛隊というものをどうみるか。人によっては普通の軍隊として、別の人は特殊な軍隊として見る。軍事力と言ったときに、自己完結性がでるが、自衛隊はそもそも自己完結性をある程度削っている。
自衛隊は何なのか。どこからどこまでが軍隊で、どこからどこまでが違うのか。現状はどうなのか。そしてこれからどうなっていくべきか。防衛力整備の実態をみると、自衛隊からのボトムアップが現状。ニーズをもって政府などは考えるべき。
またこういう議論があることを議論が早い段階で自衛隊にインプットとしてあげる必要がある。またそもそも防衛力整備を皆でやるというような方向性もある。その辺をクリアにする必要がある。
そもそもアフリカにどう日本が取り組むべきか、この点について認識深めていく必要がある。今でこそ自衛隊は南スーダンにいるが、国民投票のときは出なかった。エボラ危機のときも出なかった。アフリカへの援助の重要性が謳われているが、そもそも日本がなぜアフリカを援助するのかという理由づけをしっかり議論すべきではないか。
A1:上杉
どう自衛隊をとらえるか問いう議論は、本書ではあまりしていない。自衛隊は他国の軍隊と同じ能力を持っているという側面も、他国の軍隊と異なる特殊性を踏まえてという側面もある。しかし実態を考えると、特殊性を踏まえつつ、国連側のニーズも満たせる機能で、施設(工兵)任務があった。施設部隊を通じた支援を継続していくのは一つの選択肢として良い。しかし文民保護が国連PKOの中心任務になっているなかで、どうすべきかの議論は課題として残っている。
もう一つは、自然災害への対応がアジア太平洋で求められている。自然災害対応が増え、そのさいに複合的なミッションが増える。純粋な自然災害ではなく、紛争の要素があるなかで自衛隊が、JDRがどう出ていくか。PKO法とJDR法の隙間もある。日本は今後、何をやるのか、あるいはやらないのか、どんなときにやるのか、の検討が必要。
A2:田中
なぜ日本がアフリカのような遠いところに支援するのか。それは日本がグローバルパワーだから。日本の利益がすでにグローバルだから。もし日本人がグローバルだという認識を持っていないならば、持たなければならない。その利益が向上する可能性も、下がる可能性もある。長期の日本の繁栄を考えたときに、最も有益なマーケットはアフリカ。そのチャンスを脅かすリスクがある場所もアフリカ。21世紀、自分の自己利益を最大化するためにも、リスクを最小化するためにもアフリカに関心をもたなければならない。
A3:山口
自衛隊が自己完結性を犠牲にしてきたという認識は正しい。自衛隊は本土で作戦を遂行することが前提。日本を守ることの部隊はそろってる。また本土のインフラに依存している部分もある。したがって域外で運用する能力は弱い。とくに外征の必要がないがゆえに、ロジスティクスは弱い。したがって、PKOでもなんでも、部隊を出すときに、既存の部隊を派遣するではなく、新しく臨時編成しなければ構成・派遣できない。
それを踏まえたうえで、どこに投資すべきか。外征能力をつけるのか。国防特化か。そうした自衛隊の将来構想がもっと広い範囲で議論されなければならない。
Q: 感じたこと共有したい。オールジャパン連携は目的ではなく手段なら、連携する、しないという判断することも踏まえたコミュニティでなくてはならない。しっかりと互いのことを知ったうえで連携しないという決定をすることも「オールジャパン」と考えることができると思う。互いのこと(能力、手続きなど)を十分に知ったうえで、今回は連携・協力をしないで、個別に、もしくは他の相手とより効率的に協力するという判断を下せるようになること自体が、オールジャパン連携の進化を示すものとなると考える。
またフィリピン台風ヨランダ災害支援のときは、文民医療チームの1次隊のタクロバン(救援活動拠点)までの移動は、あらゆる面で空自のC-130では不可能だった(タイミング、搭載能力、航続距離、対比政府との手続き、JICAと防衛省との手続き、資機材の保管場所など)。それは現在も、そして現在開発中のC-2輸送機でも非常に難しい。航空機の能力だけでいうと、米空軍や豪州空軍等が使用しているC-17ならチームメンバーと多量の資機材を輸送できるが、それでも空港から医療なり都市型捜索救助隊(USAR)のニーズがある場所までの陸送トラック・バスを用意しなくてはならない(タクロバンにC-17で到着した豪州チームは空港に医療活動拠点を置いて活動した)。自衛隊や軍隊に対して、誤った過度の期待を持つべきではない。
また、民軍連携のプラットフォームはかなり作られてきている。JICAと自衛隊の共同訓練は、国連機関やNGOも含めて、陸上自衛隊中央即応集団(CRF)主催による自然災害対応における模擬クラスター訓練、陸上自衛隊国際活動教育隊によるPKO訓練を現場レベルではすでに積み重ねてきている。課題は、各組織からの参加者の経験・知見が所属組織の組織的蓄積となりにくいところにあると考える。
自己完結性には、連携能力(言語・コミュニケーション)ももった組織であるという点が必要になってくるのではないか。
Q: 2年間の議論のなかで、出てきた成果物、アイデアの集合としての書籍が、今後、実務にどのように使われていくのか。実務に適用してこそ出版の目的が果たされるのでは。展望があるのか。
A1:上杉
読者ターゲットをどうするのかだが、専門家の間だけで完結しては、裾野は広がっていかない。エボラも専門家はやりたかったが、風評被害で国民の支持がない状況だった。このような本を出版することで、オールジャパンの意義や課題を広く周知し、考える機会としてもらいたい。それが研究者の役割だ。
政府、民間企業やNGOで業務に携わろうとしている人たちが、本書の読者の第1ターゲット。ただそこでとどまらない。今回は、さらにターゲットを広げて、一般の読者・学部生向けに編集した。新聞程度の知識で満足している人たちにも読んでもらいたい。学部生に査読させたり、日常用語をつかったりと読みやすくする努力をした。将来の実務家の卵に読んでほしい。しかしより良い方法があれば、ぜひ教えて欲しい。
A2:司会
Train the Trainerという言葉がある。指導者、核になる人を教育することを平和活動、PKOでは意識的にやっている。その人たちどうしのネットワーク作る。民軍のフォーマル・インフォーマルな制度が色々なところで広がっている。
出版した本書を使って頂いて、批判をして頂いて、さらにアップデートして、具体的な行動につなげていくたたき台にして頂ければと思う。
Q: 実務をやるなかで、すべては最終的には被災者・裨益者をどうするか。タイムリーにという事が被災者にとって大事。タイムリーにいかにインパクトのある支援ができるかは、最終的には準備がどれだけできるかがすべて。いかに事前に準備するか。その意味ではこういう場ができること、オールジャパン研究会のような場ができることが最大の準備である。こう集まって連携しあう人たちの顔が見える、互いの実力を知る。これが大事。連携では、互いの能力を知り、信頼感を抱くことが重要だからだ。
東日本大震災(3.11)のとき、海外の医療チームをなかなか受け入れられなかったのは、各国の組織がどのようなものかわからなかったから。途上国で発災した場合にも日本医療チームも同じだった。日本の医療チームも受け入れたれなかった。そこでいろいろな形で顔をみせる努力をしている。いろいろなドクターが会議などで顔を見せる。日本のドクターへの信頼は、学会が国外で行われるなど、そういう地道な努力から来ている。こういうとこで受け入れる土壌ができる。
国際連携や日本連携など色々な連携を考えると、最もやりやすいのは日本同士の連携。国際機関との連携は、やらなければならないが、実はかなり大変だ。価値観も違うし顔もみえにくい。
A:山口
日米比で人道支援・災害救援(HA/DR)訓練をやっていた。フィリピン台風ヨランダの1週間後に東京で会議を実施しようとしてたら台風ヨランダ被害が発生した。JICAや国連人道問題調整事務所(OCHA)などさまざまな参加があった。そこでの救援活動について、ピースウィンズ・アメリカのホームページには、フィリピン軍から見て、何がどう必要で他の機関はどうだったか、どの国の何がありがたかったか(米国の航空輸送、日本C-130輸送機)など、書いてある。ぜひ見ていただきたい。
Q: 本を作ること自体がオールジャパンの大きな意義であった。オールジャパン連携の類型を二人三脚など3つ上杉先生があげてくれたが、よりひろげたい。1つはパズル型。世界のなかでの、日本の強みをどう生かしていくかという観点からだ。世界がいろいろ取り組むなかで、日本がやれることを当てはめて行く。そういうものはどうか。2つ目はノウハウ共有型。無理無理の連携ではなく、普段顔を合わせることのない人たちが、知見やアイデアの共有をすることなどもありえる。3つ目は、組み合わせ(JICAと自衛隊)などで、国民向けにメリットがある。そもそも別々の形で活動していても、対国内については、非常に大きなインパクトがある。いるだけでオールジャパンが成立している。民間企業、研究者、学生、メディアも含めてオールジャパンに含まれていけるのではないか。現在の南スーダンは、まさにオールジャパンだ。
A1:田中
パズル型など、類型化の試みは大賛成。
A2:上杉
パズル型のようなものを加えるべきというのは、今後、必要な視点だ。オールジャパン連携は物々交換(機能の相互補完)という形を考えてしまいがちだが、現場からの声では、「情報やノウハウ」の交換が大事という指摘があった。情報、ノウハウ、知見の共有の場としての「オールジャパン」というのも、重要な型として存在する。個々のアクターに、別々のサポーターがいる。日本の多様な主体がいる南スーダンのような場所を結節点として、オールジャパン連携を考えていくことが重要なのではないか。
Q: 執筆者の一人だが、以下のようは共通了解が執筆者全員にあると言っていい。
1. 「オールジャパン」は支援のための手段であって、目的それ自体ではない。
2. 「オールジャパン」は手段の一つであり、オプション。唯一無二の手段ではない。
3. それが有効な手段であるときに、使えるように普段から準備しておかなくてはならない。
それを踏まえて、ではその平時での準備の音頭を誰・どこが取るべきだろうか?という議論がオールジャパン研究会では必ずしも深まらなかった。どこから音頭をとるべきか。とらない方がいいか。とるとすればどこであるべきか。
A1:長
オールジャパンを言い出す人・組織によっては、オールジャパン連携は目的それ自体として出現しうる。
A2:田中
準備のためのどこが音頭取るのか、どういう準備が必要になるのか、型に応じて考えてはどうか。準備のためと考えると、緊急援助について、防衛大臣とJICA理事長のもと、皆が集まり、さあやりましょうというのが良いのではないか。
A3:上杉
誰が音頭を取るかはケース・バイ・ケースだ。政府の中枢(国家安全保障会議・国家安全保障局)が司令塔の役割を果たすことも考えられる。ただし、開発や外交がすべて安全保障に引きずられる可能性と懸念がある。国家安全保障戦略の一環としてオールジャパン連携を推進する場合、安全保障色が強まってしまうという懸念が残る。そこが難しい。
●司会
かつて野中郁二郎先生が指摘されたことだが、コンセプトやプロジェクトの名前を決めるときは、ほわっとしているものの、皆がそこに突っ込みを入れたくなる程度のイメージを持てる形、用語とすることが大切。オールジャパンはまさにそういう概念で、これから議論が深まってほしい。